
【逆らえる風の行方】
双子の兄弟で「遥」「彼方」とは、どうにも適当なネーミングだと、俺は思う。
きっと俺たちを生んだ母親は、本当に俺たちがいらなかったんだろう。
俺と彼方は、生まれた時からとある孤児院にいた。
勿論その時は「S」という存在は知らなかった。
だけどそこは……控えめに言って、地獄だったと思う。
一応カトリック系の孤児院だったが、暴行なんて日常茶飯事。
大人におびえて、できるだけ何もないようにいい子にする、そんな日々。
そんな日々で、彼方が縋ったのは神だった。
信じていれば、いつかきっと。きっと幸せになれると。
彼方の夢は神父になることだった。
教えをといて、少しでも皆が救われればいいと……優しい子だった。
あれは……俺が十一歳をこえたころ、だったか。
俺は施設の大人に……犯された。 俺ももう何も知らないわけじゃなかったから、いつかそんな日が来るんじゃないかとは思ってた。
だけど俺が怖かったのは「それ」じゃなかった。
俺がされるのは、正直どうでもいい。
だけどそれが、弟に……彼方に及んだら。
それだけが、とても怖かった。
だってそれは、彼方から夢も何もかも奪うものになるんだから。
だから俺は……自分からあいつらに申し出て、協定を結んだ。。
俺に対しては何をしてもいい、代わりに、彼方には手を出さない、という協定を。
それから俺は毎日のようにあいつらの夜の相手をしていた。
最初はとても痛くて、苦しくて。
だけどそれでも、あの優しい彼方を守れるなら、耐えられた。
次第に痛みにも慣れて、それが気持ちいいと感じるようになったときは、自分を嫌悪したけれど。
だけどそれでも……どうしても。
彼方にだけは、手を出させたくなかったんだ。
――でも、それは、ある日突然あっけなく破られた。
15歳になったある日、あいつらは……彼方に手を出した。
正確には、いつも知っている施設の大人じゃなかった。それよりももっと偉いとされるような人。
あいつらは俺との約束よりも上に媚を売る方を選んだわけだ。
それからすぐの事だった、彼方が自殺したのは。
冷たくなった彼方と対面して、俺は自分の非力さに泣いた。
同時に決意した。あいつらは、絶対に許さない。絶対に報いを受けさせなければならない。
そのためには、ここにいてはいけない。ここにいる理由はもうなくなった。
……俺はそうして、彼方の葬儀が終わった後、施設から逃げ出した。
それから先は、もう語る必要はないだろう。
スラムに転がり込み、時に誰かに取り入り、時に誰かを殺し。
決して楽とは言えない生活だったけど、それでも以前に比べれば全然ましだった。
――その果てに、今、俺はここにいる。 「S」を壊そうという「組織」。今の俺の居場所。
もしかしたら、今までで一番優しい場所かもしれなかった。
だってこんな俺を、家族として受け入れてくれたのだから。
だから、俺は、絶対に立ち止まらない。 振り返らない、
ただ、「S」を倒すその時まで。
その時まで、戦い続ける。
END.
【エリィゼラ様 作】