Chapter1:Secret Code
「組織」のメンバーである蒼は、パートナーである碧、仲間である朱、紅とともに、
世界的秘密犯罪組織「S」の壊滅を目指し、日々任務をこなしていた。
蒼はディーラー、碧は医師、朱は女子高教師、紅は商社の部長という表の顔をもち、
もっぱら夜に「組織」の任務にあたる。
彼らの実力は「組織」の中でもトップと言われ、「S」に恐れられていた。
着実に任務をこなしていた四人だが、あるとき、朱が個人的な依頼を持ち込む。
それは彼の勤める女子高と姉妹校である男子校の生徒を狙った「S」の人間による連続レイプ事件の犯人抹殺だった。
そのために、蒼に囮になって欲しいという朱に、碧は激昂する。
実は蒼は幼い頃引き取られた義父によってレイプされ、無理やりAVに出演させられていた過去があった。
しかし、当の蒼は自分のような人間がこれ以上増えることがないように、と依頼を受諾する。
囮となり、「S」の構成員に攫われる蒼。
その手口は巧妙で、武器を奪われ拘束され、危うくレイプされそうになったが、
隙をついて「S」の構成員を殺害する。
数瞬遅れてその場に駆けつけた碧は「また俺は間に合わなかった」と呟き、蒼を抱きしめるのだった。
その後、暫くしてクリスマスに任務が入る。
本来は朱と紅にあてがわれた任務だったが、二人には既に別の任務があり、蒼と碧が受けることになる。
何故か言い知れぬ不安を覚えながら、任務当日を迎える蒼。
約束の時間、約束の場所に、碧が現れることはなかった。
不安を抱えたまま、一人で任務を遂行し、成功するが、ターゲットの男は最後に、
「俺はしょせんただのコマだ」という言葉を言い残し、絶命する。
現れなかった碧の安否を心配しながら、殺害現場の倉庫から出た蒼は、無数の車のライトに照らされる。
今回の任務は、罠だったのだ。
そして、そのライトの中心にいたのは、仲間のはずの朱と紅だった。
朱と紅の正体は、「S」の幹部であり、蒼を「S」へと連れ去るため長い年月をかけ隙を狙っていたのだ。
裏切りに絶望し、二人に向けて銃を構える蒼。
だがその瞬間、胸に重い痛みが走り、その場に倒れる。
生まれつき抱えていた原因不明の心臓病の発作が起きたのだ。
薄れゆく意識の中、碧が現れなかった理由は、仲間だと思っていた朱に裏切られ、「S」に囚われたためと知る。
そのまま蒼は「S」の日本支部と化している総理公邸へと連れられ、
ナンバーツーである、現内閣官房長官と対面する。
その足元には傷つけられ、ぼろぼろになった碧の姿があった。
「S」に戻ってこい、という官房長官の不可解な言葉を拒絶すると、
官房長官は碧を殺す、と不敵に笑む。
絶対に碧を殺させはしない、そして自分は碧とともにこの場から逃げてみせる、
そう言い切る蒼に、官房長官は言い放つ。
「お前の父親は「S」の幹部だった。そのことを碧は隠し続けていた。」
初めて明かされた真実に力なく崩れる蒼は為す術もなく、官房長官の手の中に落ちる。
傷だらけの体で悲しげに謝罪の言葉を繰り返す碧に向けて「今までありがとう、さよなら」の言葉を残し。
その後、蒼は自分の存在意義を見失い、食事もとらず人形のようにただ「S」に囚われていた。
だが、そんな蒼を叱咤したのは、敵であるはずの朱だった。
「そんなふうに絶望していても、ここから逃げ出すことはできない。
君なら、自分の力で逃げ出すことが出来る、絶対。…もう一度、碧に会いたくないの?」
言葉の真意を掴めぬまま、それでも蒼は自らの希望を見出す。
此処を抜け、碧にもう一度会いたい。そして碧の口から真実を聴きたい。
自我を取り戻した蒼だが、そんな折、官房長官にレイプされそうになる。
それを救ったのは、「S」日本支部のトップである黄だった。
黄は蒼の父親である珀のかつての親友であり、たびたび蒼をコーヒーに誘った。
最初は頑なに心を閉ざしていた蒼も、やがて少しずつ心を開きだす。
そんな蒼に黄は言うのだった。
「どうか珀を嫌いにならないでくれ。彼は彼にできる限りで頑張ったんだから。」と。
紅もまた、蒼を「S」に攫ったことを内心では悔いていた。
紅は自分が蒼に対して淡い恋心を抱いていたことに気付く。
やがて、官房長官の指揮の下、蒼は「S」の裏切り者の抹殺の任務を下される。
抜け出すためにはまずは相手を油断させる必要があると、従う蒼。
しかし、そうしているうちに、「殺す」ことに抵抗感を失くし、
むしろ「快楽」さえ感じる自分の存在に気づき、恐怖を覚える。
そんな時、黄がひとりの男を蒼に紹介する。
「硝」と名乗るその男に、何故か蒼は懐かしさと恐怖を覚える。
彼は「S」の研究者であり、蒼の出生の秘密全てを知る男だった。
裏切り者の抹殺任務と、硝の実験への協力で、蒼の心は徐々に擦り減っていく。
そして限界を迎えたその時、硝の口からすべての秘密が明かされるのだった。
蒼の父親である珀は、「S」の幹部であると同時に、「クローン」の研究者であったこと。
蒼は「S」の理想の殺人マシンとなる人間を作るために、珀の手で作られた「クローン」であること。
原因不明の心臓発作は、その時の副作用であること。
しかしある日、珀はそんな蒼を突然殺そうとし、それ以来、硝が蒼を育てたこと。
突然、珀が硝の手から蒼を奪い、珀の妻とともに「S」から逃げ出し「組織」に逃げ込んだこと。
告げられた真実に、蒼の心は壊れる。
蒼は幼いころから「泣く」ことができず、また理解できなかったが、
それさえも「殺しに不要だから」と珀の手で奪われた…、自分は所詮、殺人のための道具。
その後、命令が下されるがままに見境なく殺しを続ける蒼。
しかし、時折理性を取り戻し、本能との間で苦しみもがく彼を抱きしめるのは、
ともに任務にあたっている紅だった。
「紅、俺を壊してよ。」
何度も懇願され、そのたびに自分の無力さを紅は痛感するのだった。
そんな蒼の手元に黄から一冊のノートが渡される。
見ることもなく放置されていたそれを、朱が発見して読む。
そこには、硝が蒼に告げたこととは異なった、「本当の真実」が綴られていた。
一方、瀕死の状態から生還した碧は、蒼に嘘を吐き続けていたことへの後悔で絶望していた。
そんな彼を先輩医師である紺野は叱咤する。蒼を救えるのは、お前しかいない、と。
今度こそ、本当の意味で蒼を助けるんだ、と。
蒼を取り戻す、という強い意志を抱いた碧は、まず朱と紅について調べることにする。
二人の裏切りには何か理由がある、二人が単なる「S」の駒とは考えられなかったからだ。
そこで碧は、紅がある教会のシスターの息子であり、朱はその教会が経営する孤児院にいたことを知る。
そして、教会に実際に足を運ぶと、「S」の取り立て屋と銀行員が押しかけている場面に遭遇する。
法外な要求をする彼らに小切手を渡し、取り立て屋には軽く仕置をして追い払うと、
紅の母親は礼の言葉とともに、紅の父親が失踪し、その後、銀行から巨額の借金の請求がされるようになったこと、
そのために紅と朱はバイトをして少しでも支払いの足しにしてくれたが、
あるとき「S」の男にもっと割のいい仕事がある、と言われ、その後姿を消し、
毎月100万円の仕送りだけが送られてきていることを教えてくれた。
また、紅の父親は本当は失踪したのではなく殺されていたが、紅の母親自身がそれを受け入れられず、
紅たちには本当のことを伝えていないこと、借金などしているはずがないことを聞きだす。
全ては、朱と紅を「S」の連れ込むための罠だったのだ。
真実を知り、碧は決意をする。
蒼だけでなく、朱と紅も、「S」から救い出す、と。
蒼は日に日に人間としての感情を失い、殺人マシンへと堕ちていく。
何もできず、ただ見守り続ける紅。
しかし朱はそうではなかった。
自室のベッドで獣のように呻く蒼を叱責し、そして、黄のノートに書かれていた真実を伝える。
珀と珀の恋人は、心から愛し合っていた。
けれど珀は「S」以外の世界を知らなかった。
彼自身も実は「クローン」であり、それも人としての感情を全て奪われてた、まさに道具として生まれてきた。
だが、その後、彼自身の力でひとつひとつ感情を得て、「人間」らしい「クローン」になったのだった。
そんな彼は、自分たちの愛の形を残す方法も、知らなかった。
珀の恋人―のちの珀の妻、すなわち蒼の母は、
自分が妊娠したら「S」に二人の子どもだとばれてしまうことが分かっていた。
そこで二人は、試験体の受精卵に混ぜて、自分たちの精子と卵子で作った受精卵を育てたのだ。
しかし、その一部始終を見ていた男がいた。硝、だった。
硝は二人を当時の「S」のボスの前に呼び出し、全てを詳らかにしてみせた。
そして、彼らの手から大切な「子ども」を得ることに成功したのだ。
硝はその子どもに「最強の殺人マシン」となるための遺伝子操作を行った。
実験は、少なくとも初期段階では成功した。
元気に生まれてきた子ども。いつか、人を殺すための道具になる子ども。
絶望した珀は、その子どもを殺そうとした。
だが、それを止めたのは、黄だった。
先天的にたとえ殺人マシンとして作られようとも、後天的に運命を変えることはできる。
黄の言葉に目を覚ました珀と蒼の母は話し合い、そして決断したのだ。
この子を連れて、「S」から逃げる、と。
改めて知らされた「本当の真実」。
その夜、部屋を訪ねてきた黄に全てを知ったことを告げると、黄はそれが真実だと肯定する。
自分を「S」に引き込みたいなら、殺人マシンにしたいなら、何故こんなことをするのか、
そう尋ねる蒼に、黄は告げる。
「出会った時の、脆くて綺麗な君が好きだよ。血塗られた殺人マシンよりも。」
黄の真意が分からず、抱きしめてくる腕を突き放す蒼に、謝罪の言葉を残して黄は去る。
その後、部屋を訪れた官房長官から、ついにある指令が下される、それは。
「碧を、殺せ。」
総理公館のホールに、約束通り碧は現れた。
蒼は碧の額をまっすぐに狙い銃を構えるが、碧は決して銃を構えることはなかった。
「こうなってしまったのは、俺の責任だ。俺を殺して楽になるなら、それでいいんだ。」
響く銃声。
しかし、蒼が撃抜いたのは、彼らを見下ろす監視カメラだった。
蒼は碧に駆け寄り、ずっと会いたかった、一度でも裏切られたと思いごめんなさい、と告げ、
その胸に縋りつく。
強く強く蒼を抱きしめる碧。もう二度と離さない、という言葉に、腕の中の蒼は頷いた。
だが、再会の喜びの時間は長くは続かなかった。
蒼はある決意をしていた。「S」のボスである黄と決着をつけると。
黄はいま都庁のヘリポートに向かっており、隣国に渡ったのちは暫く戻らない。
ともに都庁を目指そうとした蒼と碧だったが、そこに紅が現れ、二人を始末しようとする。
紅を救いたいと思う二人は迷うが、別のドアから現れた朱がヘリポートへと手引きするという。
碧は紅と対峙し、蒼に朱とともに行動するように指示する。
朱を、信じることにしたのだ。
蒼と朱は「S」の構成員たちの猛攻をかいくぐり、首相公邸の玄関までたどり着く。
そこにいたのは、官房長官。
蒼を先に都庁へと向かわせ、官房長官と対峙する朱。
一撃で仕留めたはずの官房長官は防弾チョッキで難を逃れ、逆に朱を撃ち、蒼を追って都庁を目指す。
碧と紅の戦いは、拮抗していた。
が、隙をついて碧は紅に彼の母親から聞いた彼の父親の話を伝える。
動揺した隙に紅のピストルを弾き飛ばす碧。
負けを認めた紅は自分を殺せと碧に言うが、碧はそれを自分も蒼も望んでいないと伝える。
そして、自分の身の処し方は自分で決めろと告げ、蒼の後を追う。
紅もまた、碧とともに都庁を目指すことを決める。
公邸の玄関で、二人は撃たれて倒れた朱を見つける。
意識がなく危険な状態の朱を紅が病院へと搬送することにし、
碧がひとりで都庁に向かう。
黄が国外へと発つ寸前に、蒼は都庁の屋上へとたどり着く。
降り出した激しい雨の中、対峙する二人。
そこで蒼は黄に思いがけないことを伝える。
「貴方は本当は「S」のボスなどでいたくはない、一緒に逃げよう」と。
驚く黄、酷く優しい顔をしてやはり君は珀の子どもだと笑う。
珀も「S」を去る最後の日に、同じ言葉を黄に告げたのだという。
しかし黄は言い放つ、今の地位を捨てるつもりはない、と。
対峙する二人。
激しい撃ちあいの末、勝ったのは蒼だった。
蒼の放った弾丸は黄の利き手を撃抜いていた。
武器を持てなくなった黄に勝ち目はない。
自分を殺してくれ、と笑う黄に、蒼は首を横に振る。
一緒に生きて欲しい、と。父が願って叶わなかった夢を、自分にかなえさせて欲しい、と。
驚き、そして頷く黄。
本当は、珀が差し伸べてくれた手が嬉しかったこと。
けれど、自分も遺伝子操作された「クローン」で、殺人衝動を当時コントロールできず、
一般社会で生きることが出来なかったこと。
恋人がいることを知りながら、珀のことを愛していたこと。
そして今は――、蒼に惹かれていること。
蒼は戸惑いながら黄に手を伸ばす。
その瞬間、凶弾が黄と蒼を貫いた。
後から追ってきた官房長官が二人を撃ったのだ。
弾は黄の肺と蒼の太腿を貫通していた。
「愛している、でも、もうひとりの愛する人のところに行くよ」という言葉を残し、
黄は利き手と逆の手にナイフを持ち、官房長官に襲い掛かる。
官房長官は黄を蜂の巣にし、黄は絶命する。
だが、同時に官房長官の持っていた銃の弾は切れていた。
憎しみに心を支配された蒼は、官房長官を撃ち殺し、こと切れた後も何度も何度も撃った。
原型が分からなくなるまで、撃ち続けた。
そして弾が無くなると、もはや息をしていない黄の唇にそっとキスをした。
「ありがとう」と。
碧が都庁の屋上にたどり着いたときには、全ては終わっていた。
太腿からの出血と、おりからの激しい雨に打たれ倒れる蒼を半ば絶望して抱きしめる。
だが、蒼は死んではいなかった。
意識を取り戻した蒼は碧に微笑みかけ、全部終わったよ、と悲しげに告げる。
全てを悟った碧は蒼を抱き上げ「今は休めばいい、…生きていてくれてありがとう」と告げ、都庁を後にする。
その後、「S」の日本支部には黄とは別のボスが君臨し、官房長官は殺された男の双子の弟が就任し、
「S」の本部を叩かなければ意味がないと悟らされることとなった。
朱は順調に回復し、蒼もまた怪我と持病の治療で入院していたが、1か月ほどで退院した。
もう「組織」には戻れない、という朱と紅に、二人は変わらず仲間だ、
いや、仲間以上の存在―「家族」だ、と蒼と碧は告げる。
そして、四人で同じ家に住み、一連の出来事の前のように再びともに「組織」の一員として、
「S」と戦っていくことを誓うのだった。
【Chapter1 End】